札幌地方裁判所 昭和28年(ヨ)219号 決定 1953年10月02日
申請人 三井鉱山株式会社
被申請人 本庄屋留吉 外四〇九名
主文
被申請人らは、申請会社の承諾なく別紙目録第二記載の施設に立入つてはならない。
申請会社の委任する執行吏は、前項の主旨を公示するため、適当な方法をとらなければならない。
(無保証)
理由
(疎明された事実)
申請会社は、高炭価を克服し適正出炭を確保して会社の健全な経営を保持するためには、人員整理を含む企業合理化が必要であるとし、昭和二十八年八月七日以降、被申請人らが所属する三井美唄炭鉱労働組合(以下組合と略称)の上部組織たる全国三井炭鉱労働組合連合会(三鉱連)に対し企業合理化要綱を示し、これが協議のため団体交渉の申入れをなしたが、三鉱連は右要綱中、解雇基準、日程及び処遇を定めた部分を撤回しなければ交渉には応じられないと主張して互いに譲らなかつたため、ついに実質的な協議を経ないまま申請会社は右要綱にもとずいて被申請人らに対し、同年九月四日午後四時までに退職願を提出しないときは同日付をもつて解雇する旨の条件付解雇の意思表示、ならびに同日午後四時以降申請会社の事業所その他の施設への立入を禁止する旨の通告をなすにいたつた。
被申請人らは、指定日時までに退職願を提出することなく、解雇の無効を主張して他の従業員とともに、右日時以降もそれぞれの番方に別紙目録第二記載の施設を含む各従前の職場に立入り、組合員多数のピケその他の方法により、会社業務担当者の被申請人らに対する就労禁止措置を排除し、実力をもつて就業を強行した。
しかして、被申請人らに対する作業の指揮はすべて組合によつてなされ、その限りにおいて申請会社の従業員に対する経営上の指揮命令権は排斥され、他方において被申請人らは、鉱山保安法ならびに石炭鉱山保安規則に定める保安管理者の指揮を離れたため、鉱業権者たる申請会社の右法令にもとずく義務の履行が困難となり、申請会社の事業場における職場秩序は混乱するにいたつた。
(当裁判所の判断)
ところで、一般に従業員が――或いは被解雇者が解雇の無効を前提として――使用者に対し就労を請求する法律上の権利があり使用者はその労務を受領する義務があると解するにしても、使用者において任意に労務の受領をなさないときは、法にしたがつて国家機関の救済を求めるのは格別、本件被申請人らのごとく、申請会社の意思を排除し自力をもつて会社事業所内に立入り就業することは許されないものと考えられる。
したがつて申請会社は、被申請人らの前述のごとき現行法上許されない就業により、その正常な業務の運営を妨害されているのであるから、前記解雇の効力の有無にかかわりなくその排除を求めることができる。しかして、申請会社の事業場における職場秩序の混乱については前段認定のとおりであるから、被申請人らが現に就業のため立入りまたは将来立入る虞れのある申請会社施設のうち、重要度の高い別紙目録第二記載の物件については、申請会社がその立入禁止を求める保全の必要があること、おのずから明白であるといわねばならない。
よつて、主文のとおり決定する。
(裁判官 猪股薫 中村義正 杉山克彦)
(別紙目録省略)